多重人格ー百田尚樹 【プリズム】

百田尚樹の作品の特徴の現実的なフィクションという側面があるように思う。
主題に対する徹底した調査によって、物語自体はフィクションでも、それが現実性を帯びているために感動もリアルなのである。
 
この「プリズム」という作品もまさにその典型だといえる。
 
本書のテーマは多重人格。
一度ぐらい聞いたことがある「多重人格」という言葉も、それが医学的にはどう解釈されているか、どのような障害があり、それはどのように治療できるのか。我々はほとんど知る由もないことだと思う。

「多重人格」はどのような原因で引き起こされるのかなど、多重人格について調べるためには膨大で地道な研究が必要である。百田尚樹はその膨大で地道な研究を怠らない非常に学者的な小説家のように感じる。

本書の巻末には「プリズム」を書くために参考にした参考文献がずらりと並ぶ。それを見るだけでも百田尚樹は単なる思い付きではなく、ノンフィクションを重んじるフィクション作家といえそうである。

今回の物語は家庭教師として豪邸に招かれた一人の女性と、その女性の目の前に現れた一人の男性を中心に構成される。
 
個人的には前半は物語の行方を気にしながら楽しく読めたが、後半は物語の落としどころが見えてしまい、かつ結局「不倫」という物語の主題とはかけ離れたテーマの露出が顕著になり、少し残念な印象を受けた。主人公の女性の性格も、正直好きではない。恋愛経験が少なそうなのにどこか高飛車で、多重人格で通院している男性に対し助けてあげるよりも自分に何をしてくれるかを無意識的に期待している感に嫌悪感を抱く程度に、である。
 
僕がこの作品を評価する理由は、テーマに対する着眼と徹底的な調査に対してだけかもしれない。