学校では教えてくれないインド・カースト制度のリアル

インド最貧州にあるスジャータ村

ビハール州の州都パトナーでのデータ収集を終え、仏陀が悟りを開いたとされるブッタガヤを訪れました。ブッタガヤから数㎞離れた場所にスジャータ村という農村があります。仏陀が苦しい修行の中でも悟りを得られずこの村で休養を取っていた時、村娘であるスジャータから乳粥を供養されます。その乳粥によって体力が回復した仏陀はやがて深い瞑想に入り、ついには悟りに到達するようになります。今回の訪問ではこの伝説あるスジャータ村で生まれ、スジャータ村で育った友人P君の助けによって、学校や教科書ではなかなかその実態を知ることが難しいカースト制度のリアルな現状を観察することができました。

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勤勉でソーシャルワーカーで博士課程の友人P君

彼との出会いはロンドン大学のインド人の友人の紹介です。P君は英語、ヒンディー、日本語、スペイン語、サンスクリット語の5か国語が流ちょうに話せます。驚くべきなのはこれらの言語を独学、それもスマホでYOUTUBEの語学講座を見ることで覚えてしまったそうです。あとは観光地なので沢山の観光客相手に会話の実践を積んでいったそうです。彼は現在マガダ大学修士課程を終え、今年の9月からは博士課程に在籍するインテリでもあります。インド古代史を専攻する彼は、持ち前の教養の高さと語学力活かして観光ガイドをやりながら学費を稼いでいるそうです。そんな彼と彼の故郷であるスジャータ村で丸2日間一緒に寝食を共にし、様々な場所に連れて行ってもらい、様々な話を聞かせてもらいました。

インドのカースト制度

インドにはカースト制度という身分制度が現在でもしっかりと残っており、人々は自分の位置するカーストによって職業選択や生活のスタイルが決められていきます。実際にはカースト制度は職業それ自体がカーストになっている場合が多く、職業の数だけ身分が存在するとも言えます。

学校で学ぶカースト制度はバラモン(司教)、クシャトリア(王族・豪族)、ヴァイシャ(市民・商人)、シュードラ(奴隷・農耕などに従事)、不可触民(カースト制度に入らない人々)と分けられますが、現在ではざっくりと上流(アッパークラス)、中流(ミドルクラス)、下流(ロウアークラス)、アンタッチャブル(アウトカーストの人々:本人たちは自らをダリットと呼ぶ)と呼ばれるそうです。ちなみにP君の家庭は中流カーストに位置するそうです。

興味深いのは、上流カーストであっても貧しい人は貧しく、下流カーストでも恵まれて学を得て高給な職業に就ける人もいるのだそうです。この場合、身分が変わるのかな?と思ったのですが、生まれながらにして定められた身分は生涯変わらないそうです。職業が自らの身分を示す一面がある一方で、どんな職業に就いても生まれながらに属するカーストは変わらないというのですからこの辺が複雑なところです。さらに政府はそれぞれの身分を示す身分証を発行します。つまりその身分証によって自分が上流カーストなのか下流カーストなのかはっきりと証明されるのです。その意図としては、ロウア―カーストやアンタッチャブルに属する人々は政府や様々な団体から支援を得られることにあります。

スジャータ村で見たカーストのリアル

一つの村で様々なカーストの人々が混合して暮らしている地域もあれば、同じ村内でもカーストによって住む場所が完全に分けられている地域もあります。それぞれのカーストで生活スタイルや価値観が異なるために、同じ村内でもそれぞれ別々に暮らしていた方が比較的治安が安定するそうです。スジャータ村はそれぞれのカーストが別々の場所で生活をしている村です。例えば中流~上流カーストの人は一般的にトイレで用を足しますが、下流~アンタッチャブルの人々はトイレを使わないことが多いなどの違いがあります。私は今回P君のおかげでスジャータ村内の全てのカーストの生活を見させてもらいました。同じ村内でも全く別世界でした。

1枚目の写真が下流カーストに属する人たちの生活です。彼らの住んでいる家は最近になって政府から支援されたものらしく、それ以前はもっとボロボロの家に住んでいたそうです。また、彼らが持っている服も一人1枚~2枚ほどで服を持っていない子供もいます。中にはパンツさえ履いていない小さな男の子がいます。お漏らしすると洗濯しなくてはいけないので、親がパンツを履かせずにそのまま放置しているのです。P君が言うには、親から挨拶の仕方を教わらずに育つ子供もいるとのことです。子どもたちは部外者である私を、表情一つ変えずにじっと見つめていました。

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2枚目の写真は中流カーストが住むエリアです。このエリアになると小さなお店を営み、商業によって生計を立てている家庭を見ることができます。また、自転車やオートバイを所有する家庭もあります。この辺りを通ると多くの子供たちが私に手を振り、「ハロー」と声をかけてくれました。

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3枚目は中流~上流の間ぐらいのカーストに位置する人々が住むエリアです。彼らの中には車を所有し、街に出てビジネスをしながら生計を立てている人々もいます。住んでいる家も2階建てで頑丈な建物です。

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政治家に利用され、殺される下流カーストの子どもたち

スジャータ村の下流カーストに位置する子供たちの多くは日中に働きに出ますが、中には学校に通う子どもたちもいます。しかし学校に通うのはおよそ60%ぐらいだそうです。これは貧しいだけが理由ではありません。親が子供をあえて学校に送らないのです。その背後には腐敗した政治の闇があります。一般的に上流カーストの子どもはの親は子どもを私立の学校へ通わせようとします。政府による公立学校は多くの問題を抱えているからです。例えば先生が学校に来ない。授業をしないのに教師は給料をもらえる。だからますます授業をしない。こんなおかしな状態が今も続いているのです。

しかし、親が子どもを公立学校に送りたくない最も大きな理由は、子どもが死ぬからです。少し前に、公立学校で提供される給食に毒が混入され、数十名の子どもが命を落とした事件が起きたそうです。主犯は政権を狙う野党の政治家と言われています。給食に毒が入っていたという事件によって、与党は信頼を失って政権を奪われます。しかしながら政権を失った政党がまた同じように給食に毒を入れて与党の評判を落とそうとする。こうした信じられない出来事が実際に起きたため、親は子どもを学校へ送らせない選択をせざるを得ないのです。まさに政治家が貧しい人々を利用する、恐ろしい環境です。P君はこうした現状を憂い、市民の手で運営する学校を現在建設中です。

途上国における定性的調査ではインタビューや観察に頼るしかなく、私が観たことや聞いたことはすべてが100%正確であるとは言えません。しかしながら現地の人々の生の声に耳を傾けることは、問題点を洗い出す上で重要なことであると信じています。