これからの時代に求められる新しい学力

JEF for SDGsに参加して

先日、外務省、文部科学省,広島大学,筑波大学共催の『第15回持続可能な開発目標達成に向けた国際教育協力日本フォーラム(JEF for SDGs』に参加してきた。国際教育協力日本フォーラム(JEF)は2004年から毎年開催されており、持続可能な開発目標(SDGs)及び教育2030(Education 2030)を達成が国際的な関心事項になるにつれ、JEFも2015年からJEF for SDGsを開催するようになった。SDGs及びEducation 2030の達成に向け,日本の国際教育協力が果たす役割について議論する、というのがJEF for SDGsの主な目的である。

今年のフォーラムのテーマは『SDGsが求める教育の質』だった。

会場には実に多くの(国際)教育関係者が集った。これだけバラエティに富んだ(国際)教育関係者が一堂に会するのもJEFならではだろう。教育現場の最前線で活躍される教育者たちのメッセージは刺激的で、とても素敵なインプットの場であった。

特に考えさせられたのは秋田大学教育学研究科の阿部昇教授が触れていた「これからの時代に求められる新しい学力」についてである。

これからの教育方法の主流はアクティブラーニング

阿部昇教授はアクティブラーニングという学習方法を秋田大学で実践し、また指導されている。本フォーラムでは基調講演にてアクティブラーニングの課題と展開可能性について語られた。

アクティブラーニングとは「主体的で対話的で深い学び」を意味する。阿部教授はこのアクティブラーニングは一過性のものではなく、世界の主流となる教育方法であり、これからの時代に誰もが身に着けるべき学力を養う不可欠なツールになると強調した。

ちなみに、阿部教授によると、これから求められる国際標準の学力の一例として「多様な視点で物事を捉える批判的思考力」「物事を俯瞰的に捉える論理構造把握力」「学び手が主体となって学習に関わることで身につく社会的実践力」を挙げている。これらの能力を身につけるために、アクティブラーニングが有効であるということである。

対話を通じて内言を外言化し、思考力を高める

アクティブラーニングを行う上でのキーワードが”対話”である。阿部教授は人類が対話を始めた時期と人類が知を探求してきた時期は重なるとして、異質な他者と交わりながら対話を重ねていく重要性を強調している。特に対話を行うことで、内言の外言化という効果が得られる。我々は日々、瞬間瞬間で頭の中でいろいろ考える。内言だ。内言は単に考えるだけなので、この時の思考はとても速い。しかしながら、内言だけだと構造化に弱いのだ。内言を発話することで、ロジックを組み立て、構造化できるようになる。また、様々な人と互いに内言を外言化すること、外言の更新が起き、思考力が高まるという。

優れた教材と目標設定が不可欠

アクティブラーニングは学習者の積極的参加を促すため、楽しい。だからこそ単なる活動主義に陥る危険性もある。気を付けないと授業後に「あー良かった。楽しかった」以外に何も残らないという可能性もある。阿部教授はこうした活動主義や一過性のようなアクティブラーニングを防ぐために、質の高い教材研究と目標設定が重要であるという。アクティブラーニングを通して質の高い学びを得るためには、教師がどのような学びを子供たちに追求するのかという目標設定と、学習後に知識が定着するための質の高い教材が不可欠である。

しかしながら、今の教師たちは教材研究するための時間が圧倒的に足りていない。今後、アクティブラーニングが教育の主流となる可能性を考えると、いかに教師たちの時間を確保するかがキーになる。また、教師の個々の研究だけでなく、授業参観やワークショップなどを通じた教師同士の共同研究がアクティブラーニングの成功には欠かせない。

アクティブラーニングは歴史認識をどう扱うか

阿部教授は歴史などの社会科科目を教える際にもアクティブラーニングは有効なのか、もし有効であればどのように指導すればよいのか、という質問に対し、「アクティブラーニングはすべての科目に有効である」と言い切っている。歴史事情について、こういう歴史観を持つべきだという押し付けは厳禁である。様々な見方をみながら自分に合った歴史観を身に着けていくというスタイルが望ましい。大切なことは多様な見方の中から自ら選択する主体性なのだという。

最近読んだ佐藤優氏の『君たちが知っておくべきこと: 未来のエリートとの対話』でもこれに関する内容が登場する。欧米のエリート教育は歴史観を押し付けるのではなく、様々な仮説的なシチュエーションを与えて、それについて考えさせ論理を構築させる。1つの歴史事象について、様々な見方から考えさせる教育を行っている。

君たちが知っておくべきこと: 未来のエリートとの対話

君たちが知っておくべきこと: 未来のエリートとの対話

 

やりっぱなしにせず、メタ的に振り返る

アクティブラーニングの授業で最も大事なことは、振り返りである。阿部教授はアクティブラーニングの授業後にメタ的に振り返る時間が大切だという。メタ的に振り返るとは、学べたことを次にどうやって使えるかを考えることであり、学びを別の視点から考え直してみることであり、社会的な事象や学びの文脈と学びと結び付けることである。

こうしたメタ的な振り返りを行うことで学ぶことの意味が変わる。学びは決して社会と断絶独立したものではなく、社会と密接に結びついているものである、と認識することが大切なのだろう。

これからの時代、求められる学力に変化があるのであれば、それはまずその学力を伸ばせる教育者が必要である。つまり、教育者が変わらねばならないし、もっと言えば教育者になる前の段階で、教員に求められる能力を身に着ける必要がある。こうした変化についていくことができるかどうかが、今後の日本の教育の課題となる。