ビジネスに役立つ教養の身に着け方-佐藤優【牙を研げ 会社を生き抜くための教養】

ビジネスパーソンとしてもう一段階上を目指すための教養

最近、世界史や日本史、あるいは経済学や数学をもう一度学びなおす類のビジネス書が流行っている。一言でいえば、成果を出すビジネスパーソンにとって教養は当然備えるべきものという認識が広まってきたからだと思う。
しかし教養のための教養ではなく、ビジネスに直接結びつく教養でなければ意味がない。
そう主張するのは作家で元外交官の佐藤優氏だ。

牙を研げ 会社を生き抜くための教養 (講談社現代新書)

牙を研げ 会社を生き抜くための教養 (講談社現代新書)

 

ビジネスに直接役立つ教養

彼は著書『牙を研げ 会社を生き抜くための教養』の中で
会社を生き抜くために、課長クラスのビジネスパーソンが持つべき教養について彼自身の経験も交えて述べている。
佐藤氏のビジネス著書は沢山あるが、本人いわくこれまでの著書は間接的にビジネスに役立つ知識だったのに対し、本書では直接的にビジネスの現場で役立たせることができる内容を盛り込んだという。
その内容は以下のように、ビジネスに使える教養をいくつかのテーマに分けて語っている。

・旧日本陸軍マニュアルに学ぶ仕事術
・世界のエリートの思考法を理解するための宗教入門
・論理の崩れを見抜く力をいかに鍛えるか
・地政学を知ることで、激動する国際情勢がわかる
・資本主義という世の中のカラクリをつかむ
・これだけは知っておきたい日本近現代史
・エリートの数学力低下という危機
・本をいかに選び、いかに読むか……

軍隊で部下を指揮するように、会社の部下を指揮しよう

この章では、戦時に小隊長、中隊長、大隊長など現場の部隊を動かす人物を教育するためのマニュアルとされていた『作戦要務令』を参考に、企業内で部下を持つ、言わば中間管理職のための仕事術を紹介している。

例えば、佐藤氏は『作戦要務令』で敵の意表を突けと述べられている箇所を引用し、ビジネスでも意表を突くことが有効だと述べている。 ──敵の意表に出ずるは、機を制し勝を得るの要道なり。故に旺盛なる企図心と追随を許さざる創意と神速なる機動とを以て機に臨み常に主導の位置に立ち全軍相戒めて巌に我が軍の企図を秘匿し困難なる地形及び天候をも克服し疾風迅雷敵をして之に対応するの策なからしむること緊要なり。(「綱領」第九) 佐藤 とにかく意表を突く。意表を突かれた企画、行動だと、相手のほうは想定をしていないのでまずいと思い、その瞬間にバランスを失う。そのバランスを失ったときの人間というのは弱くなるから、そこにつけ込めという発想です。 引用:佐藤優『牙を研げ』p31

今この時代だからこそ、宗教的な教養は必須
世界各地で起こるテロや北朝鮮のミサイル問題に見られる諸問題について考えるとき、そこに当事者達が持つ「思想」への知識と理解が無ければ、彼らの論理を掴むことができない。 キリスト教文化圏やイスラムの世界観、北朝鮮の主体思想などその基本だけでも知っているだけでニュースの読み方が変わるのである。 著書の中ではイスラム教とユダヤ教、キリスト教の違いについての記述が興味深かった。

ユダヤ教、キリスト教的発想では、自分は絶対に正しいと思うけれども、絶対に正しいと考えている自分がまちがっている可能性があることになる。 それに対して、イスラム的な発想だと、自分は絶対に正しい、おまえは絶対にまちがっている、となる。 だから、同じ「絶対に正しい」と考える人たちであっても、自分がまちがっている可能性があるということが原理的に埋め込まれているかどうかが、イスラムと、ユダヤ教、キリスト教の大きな違いになる。 引用:佐藤優『牙を研げ』p58 ユダヤ教、キリスト教、イスラム教は同じ神を信じる唯一神教として認識されているが、実は罪の意識が全然違う。つまり、神に対してのスタンスが全然違うのだ。このスタンスの違いを知らなければ、イスラム原理主義者達がテロに走る理由を掴むことは難しい。

文系ビジネスマンには耳が痛い、数学との向き合い方

佐藤氏は中学生レベルの数学力がない者に仕事を任せることは恐ろしいと話し、数学に自信がなければ、分かりやすい参考書や公文式に通うなどして穴を埋めるべきだと、強く主張する。 特に、エリート層の数学力の低下を外務省時代のエピソードを紹介することで警鐘を鳴らしている。
二人の若手外交官が外務省の制度で2年間、ロシアに留学した時、日本で経済学の修士課程まで進学しているにも関わらず、数学、論理学、哲学の成績が振るわなく退学になったという話だ。
佐藤氏は、国際的にみて、日本の中学生レベルまでの数学力は悲観する必要はないが、それ以上の高等教育レベルの数学力は世界のエリートと比較して深刻だという。
私も文系ビジネスマンとして、数学と向き合っていきたいものだ。

本を読んでいない読書評論家の意見には気を付けよう

本書の最後には、まさに佐藤氏らしい読書の作法が書かれている
佐藤氏は読書をただの教養で終えるのではなく、実学主義的な読書の方法をするために読書マトリクスを作ることを勧めている。
読書マトリクスとは、読書の目的を仕事、趣味、教養に分類し、さらにそれぞれに天井(締切ありのゴール)があるかどうかに分けて表を作成する。
このマトリクスを作成することで、今自分が読んでいる本は、何のために、どういう目的で読んでいるのかを明確にすることが可能となる。

また、多くの人が書籍を選ぶ際に、レビューなどを参照すると思うが、そのレビューも誰が書いているかに留意すべき必要がある。
佐藤氏は、一般的に、引用のない書評は本をちゃんと読んでいないでレビューを書いている可能性があるという。この辺は、佐藤氏本人がこれまで多数の書籍を読み、自らも執筆した経験から感じる感覚なのだろう。

書籍全体の感想としては、
ビジネスに役立つ教養の身に着け方という点では参考になる部分は多い。本書に紹介されている方法だけでなく、自分なりに工夫し、教養あるビジネスパーソンを目指していきたいものだ