ファーストネームで呼び合うことの教育学的意義

UCL Institute of Educationには世界中から様々なバックグランドを持った学生が集っています。異なった国、文化、人種、宗教など多様な背景を持った学生が互いに理解し合うことは容易ではありませんが、その過程で自分のバックグランドだけでは決して得られない様々なアイデアや考え方を学び得ることができ、とても刺激的な毎日です。

先日行われたオリエンテーションの場で自己紹介をする時間がありましたが、そこで「さすがIOE!」と思わされたことがありました。

ある中国人の名前

ある中国人女性の学生が名前を紹介した時、彼女の名前が長くて発音も非常に難しく、クラスの皆で正しい発音で呼ぼうとしてもなかなかできなかったのです。
ご存知の通り、中国語の発音は難しく、日本語には馴染のない音もあるためなかなか正しい発音をすることが難しいのです。これは日本人に対してだけでなく、また中国語に対してだけの話でもありません。
そしてそんな光景に耐えられなかった彼女は「I have my English name, so please call me Ellen」と自分をイングリッシュネームで呼んでもらえるよう伝えたのでした。

それを見ていたチューターのCatherineがすかさず割って入ります。

ダイバーシティについて英国人から学ぶ

「それでは意味がありません。あなたはアメリカ人やイギリス人になるためにこの場所で学んでいるのではなく、あなたはあなたの国の言語、文化、アイデンティティを持った留学生としてこの場に来ている。そしてあなたの名前それ自体があなたのバックグランドを表す証です。確かに、私たちは一度ではあなたの名前は覚えられないかもしれない。正しい発音で呼べるまで何回も間違えるかもしれない。それでも、私たちが目指すはDiversity(多様性)であり、あなたの名前を正しく呼ぼうとするチャレンジは、Diversityへの最初のチャレンジに他ならない。さあ、みんなも自分の名前をしっかりと伝え、そしてDiversityへのチャレンジをしましょう」


この言葉は衝撃的でした。
学生の持っている異なるバックグランドに対する圧倒的な肯定感に感動しました。
相手の名前を正しい発音で呼んであげることが「違いを認め合うこと」の最初の一歩に繋がることは、同じ日本語圏で生活する日本人にとっては気づくことが難しいことです。これこそ本当の多文化教育だと実感しました。

 First Nameで呼び合うことの教育学的意義

さらに、今課題で出されてる文献は教師が生徒を「First Name」で呼ぶこと意義を教育学的な効果性と結び付けて論じられている非常に興味深い内容です。(Voicing Names and Naming Viice: Pedagogy and Persistence in an Asian American] Studies Classroom p207-220)

文献によると、米国で学ぶ留学生が大学で持続的にかつ高いモチベーションで学ぶためには、学術的(academic)なフィールドと社会的(social)なフィールドを結び付ける教育が効果的だと述べられています。そのための一つの手段として、その人の言語、文化、家族、アイデンティティを反映する名前(First name)がとても重要な意味を持ちます。
文献の中では「自分の名前を教師に伝えても上手く覚えてもらえず、イングリッシュネームを作ることを勧められた」「イングリッシュネームで出した履歴書の方が就職に有利だった」「名前に特別な意味があるのに、その名前を呼んでもらえず、また呼んでもらえても間違った発音をされたり馬鹿にされた」などいくつかの例を挙げながら、教師が生徒のFirst Nameを正しく呼んであげることで生徒に肯定的な感情と教育的インパクトを与えられると論じています。

First nameには、名づけた人の特別な願いや意味が込められている

私自身は日韓ハーフということで名前が韓国名のため日本人にとっては発音も難しく、義務教育の過程ではFirst nameで呼ばれず比較的発音のしやすいFamily nameで呼ばれることが多かったです。
しかし、確かに振り返ってみると、中学2年生の時の担任の先生は唯一私の義務教育課程の中でFirst nameで呼んでくれた先生であり、私も無意識のうちにこの先生をとても信頼をしていました。私が教育に関心を持った根っこの部分がこの時の出来事にあるのかもしれません。

First nameには、名づけた人の特別な願いや意味が込められています。
名づけ人は多くの場合は両親であり、したがってFirst nameで呼ぶことは、本人のアイデンティティを尊重するだけでなく、その家族を尊重することにもつながります。

アジアから来た留学生や移民や難民の人々をFirst nameで呼ぶことで、彼らの存在をありのままに受け止めることに繋がるのかもしれません。

「名前(First name)」が持つ教育学的なインパクトと意義を学びました。