日本の見えない貧困を浮き彫りにした『万引き家族』を観て思うこと

カンヌ映画祭の最高賞である、パルム・ドール賞を受賞した是枝裕和監督の映画『万引き家族』を観てきた。

貧困、犯罪、虐待という社会の裏側がテーマになった映画だ。

【鑑賞日】2018年6月17日 【おススメ度】3.7/5

あらすじ

あらすじはフィルマークスからの引用。

高層マンションの谷間にポツンと取り残された今にも壊れそうな平屋に、治と信代の夫婦、息子の祥太、信代の妹の亜紀の4人が転がり込んで暮らしている。彼らの目当ては、この家の持ち主である初枝の年金だ。足りない生活費は、万引きで稼いでいた。社会という海の底を這うような家族だが、なぜかいつも笑いが絶えず、互いに口は悪いが仲よく暮らしていた。 冬のある日、近隣の団地の廊下で震えていた幼い女の子を、見かねた治が家に連れ帰る。体中傷だらけの彼女の境遇を思いやり、信代は娘として育てることにする。だが、ある事件をきっかけに家族はバラバラに引き裂かれ、それぞれが抱える秘密と切なる願いが次々と明らかになっていく──。

万引き家族 - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks

極度の貧困は最低限の教育機会さえも奪う

映画で印象的だったのは、11歳の翔太が何度も口にした「家で勉強できないやつが学校に行く」という言葉。彼は11歳という学齢期にもかかわらず学校に行っていない。学校に行かず、万引きすることを父親代わりのから教わる。翔太は薄暗い押入れの中でヘッドライトを使って一生懸命独学するが、彼が使っている教科書は家主の初枝が使っていたもの。そして教科書に登場するスイミーの物語は小学校2年生で習う。つまり、11歳の翔太は小学校2年生の教科書を使って勉強していたということだ。

スイミーの物語は本作で何度も出てくるので印象的だった。スイミーは家族を失うが、様々なところから仲間を集めて、一つの大きな家族を作る。そして、この家族が一丸となって、マグロをやっつけるという話だ。このスイミーの物語は柴田家を象徴していることは想像に難くない。それぞれ居場所を失った者たちが、柴田家の下で一つの家族を形成する。スイミーでは一丸となった家族はマグロと闘うが、柴田家にとってマグロとは貧困であり、あるいは社会ということなのかもしれない。

最後に翔太に釣りを教えるシーンがある。そこで翔太は学校に通い始め、テストで8位を取ったことを話した。翔太の地頭の良さを示すこの話は、学齢期に公教育を受けること、体系的な学習を行うことの重要性を表しているようにも思える。

貧困は途上国だけじゃない。日本にも見えない貧困がある。

私は途上国開発を仕事にしているし、昔から途上国と呼ばれる国を多く訪問する中で、明日の食べ物や着る服さえままならない「絶望的な貧困」を目の当たりにしてきた。確かに栄養失調になる子どもや、貧困で下着すら買えずに砂ぼこりの中真っ裸になっている子どもを見ると、それに比べると日本は恵まれているのだと実感することもあった。

多くの人が描く貧困のイメージは、こうした途上国に見られる絶対的な貧困だ。しかし、日本のような先進国が抱えている貧困、いわゆる相対的貧困について、その現状を見てみると、日本とて深刻な状況にあることに気づく。否、今なお深刻な状況に苦しむ人がいることに気づく。

日本財団は2015年に「子どもの貧困の社会的損失推計」で日本の子どもの貧困率は、1995 年以降年々上昇しており、2012 年には 16.3%まで達していると発表した。現在では日本の子どもの「7人に1人」、ひとり親家庭の子どもは「2人に1人」が貧困状態にある、と言われている(子どもの貧困は42兆円の社会的損失!「こども宅食」が挑む、日本の隠れた貧困問題とは | 認定NPO法人フローレンス | 新しいあたりまえを、すべての親子に。)。

相対的貧困というとピンとこない人も多いかもしれない。

子どもを取りまく社会課題の解決に取り組む認定NPO法人フローレンスは、ホームページで相対的貧困について分かりやすく説明している。

「相対的貧困」とは、貧困ラインに満たない暮らしを強いられている状態のこと。貧困ラインに満たない暮らしとは、国民の可処分所得を高い人から低い人まで順番に並べた時に、ちょうど真ん中にくる値の半分以下になる水準未満で生活している状態のことを指します。

貧困ラインは「可処分所得」という、給料のうち「自由に使えるお金」を元に計算します。税金や社会保険料を差し引いて手元に残ったお金が「可処分所得」にあたります。

2012年では、親1人・子1人の世帯で約173万円が貧困ライン。この金額では特に都市部だと生活に余裕はなく、最低限の衣食住で精一杯となります。このように、衣食住をまかなうのにギリギリで、学習塾に通う、ちょっとした旅行に行くなど、社会の中で「普通」とされる機会を得られない状態を「相対的貧困」といいます。(HPより引用:子どもの貧困は42兆円の社会的損失!「こども宅食」が挑む、日本の隠れた貧困問題とは | 認定NPO法人フローレンス | 新しいあたりまえを、すべての親子に。)

NPO法人フローレンスによると、相対的貧困の特徴は「見えづらい」ことにある。そして当事者は周囲に自らの貧困を伝えることできず、結果として周りから見れば、貧困家庭には見えないことも多いという。

『万引き家族』はこうした見えずらい、なかなかクローズアップされない日本の見えない貧困を浮き彫りにしたという点でなかなか意義のある映画だと思う。