イギリスでも議論になった「サザエさん」は時代錯誤なのか後世にも有益なのか

1. サザエさん存続の危機か、後継に高須クリニックが名乗り出る

先月11月1日に国民的アニメ「サザエさん」を長らくスポンサーとして支えてきた東芝が、番組スポンサーを降板する意向であると報じられました。

サザエさん、東芝がCM降板へ 高須クリニックが後継スポンサーに名乗り

「サザエさん」の放送が始まったのは1969年10月。それ以来から現在に至るまで、東芝は48年間にわたってCMを提供してきました。

東芝がスポンサー降板の意向を発表した後に、その後継として名乗りを上げたのが美容外科「高須クリニック」の高須克弥院長です。「高須クリニック」がスポンサーになることについては世論でも賛否両論あります。サザエさんのイメージではない、作風が変わってしまうのではないかという懸念がされています。

「もしもサザエさんが高須クリニック提供になったら」 衝撃の3本立てに高須院長も思わず反応 (ねとらぼ) - Yahoo!ニュース

そして、東芝スポンサー降板を受けて、サザエさんはもはや時代に合っていない、打ち切りでいいのではないか、という世間の声も聞かれるようになりました。

2. 実はロンドン大学でも議論された「サザエさん」のジェンダー論

私がイギリスに留学していた時に、クラスメイトと「サザエさん」について熱く議論したことがありました。「国際開発におけるジェンダーと教育」がテーマの授業でした。その中で、私たちの身の回りに無意識的に社会的な男女不平等が反映されているコンテンツorストーリーをそれぞれ紹介する、というセッションがありました。

アフリカから来た学生は学校で使用されている教材や、教師の人数の男女比(一般教師は女性比が多い地域でも、校長はほとんど男性など)について紹介しており、またその他の国から来た学生も各々の物語を紹介しました。

特に題材が思いつかなかった私は「はて、困った」、ということでいろいろと探していましたが、ある時「これは面白い!」と思ったコンテンツを見つけました。

それがサザエさんでした。

注目したのはサザエさんの登場人物の名前です。

ご存知の通り、サザエさん一家の名前は海に関係していいます。そこに込められた意味に、ジェンダー的なものがある、というのが私が紹介したコンテンツです。

詳しく見てみましょう。

まずは、サザエさん一家の名前を、男女別に分類してみましょう。

磯野波平、磯野カツオ、フグ田マスオ、フグ田タラオ
磯野フネ、フグ田サザエ、磯野ワカメ

お気づきの人もいるでしょう。

サザエさん一家の男性の名前はカツオ、マスオ、タラオなど海で自由に泳ぎ回れる生物なのに対し、女性の名前はサザエやワカメなど、自由に動き回れない生物になっています。また、波平は自ら波を起こすことができますが、フネは波の上に乗らなければ動くことができないと考えることもできます。

これはある意味で、男女不平等的な価値観を反映しているのではないか、というのが私がロンドンで紹介した内容です。

これについて、クラスメイトからかなりの反応があり、様々な感想がありました。

「日本はアニメが進んでいるから、教科書よりも漫画やアニメに思想を入れると広まりやすい」

「これは誰がスポンサーなの?そのスポンサーの社会・文化的な価値観がアニメに反映されているに違いない」

などなど。

全体的に批判的な意見が多かったのですが、ある学生の一言は今でも鮮明に覚えています。彼女はこう言いました。

「現代の日本はまだこのような家族形態で生活するのが主流なの?もしそうならこのアニメは日本の伝統や文化を非常にうまく描写していると思う」

3. いま改めて考えるサザエさんの価値

彼女の一言を聞いて、私は「サザエさん」は今後も存続されるべき価値を持っていると考えるようになりました。その理由は2つあります。

・三世帯が一緒に住むモデルの提示

まず、第一にサザエさんは3世代で暮らす拡大家族のモデルを見事に描写しています。近年、確かに拡大家族から核家族化が進み、サザエさんのような3世代同居の家庭は減少しているでしょう。しかしながら、夫婦共働きが進む中で、子育てや家事、介護など日常生活のさまざまな場面でお互いに協力し合えるようになります。今後3世代同居を考えている人にとっては、3世代同居のどこにメリットがあり、どういう部分で大変なのか、サザエさんを見ながらイメージを膨らませられるかもしれません。

・日本の昭和史を伝える歴史アニメとして

サザエさんの作風は「ザ・昭和」です。だからこそ現代の目線で見ると、確かに時代錯誤している部分も多いかと思います。共感できない部分も沢山あるでしょう。

しかしサザエさんを観る視点を変えることで、サザエさんの持つ価値は変わってくるのではないでしょうか。

では、どういう視点で観れば良いのか。

それはずばり、サザエさんを「昭和史を伝える歴史アニメ」として観ることです。

歴史アニメとして観ることで、子供から大人まで興味深く楽しむことができます。

ロンドン大学のクラスメイトがサザエさんに対し、「日本の伝統や文化を非常にうまく描写していると思う」と述べたように、サザエさんを観ることで「あぁ昭和ってこうだったんだなあ」と知ることができるようになれば、今後も放映していく価値はあると思います。歴史を学ぶために博物館や遺跡を訪れるように、昔の生活・価値観・文化をアニメを通して学ぶこともとても有益なことではないかと思います。

4. 今後のサザエさんの方向性はスポンサーで決まる

私は以上のような理由で、今後もサザエさんは放映していく価値が大いにあると思います。

ですが、どのような作風を目指すかは議論の余地がありそうです。先ほど述べたように、歴史アニメとして作品を続けていくのであれば、今まで通り昭和感を出していくことになるでしょう。

もう一つの方向性があるとすれば、古き良きものを残しながら現代風にアレンジしていく、現代版サザエさんを展開していく可能性です。例えばサザエさんが働きに出るようになったり、二人目の子供が生まれてマスオさんが育児休暇を取得するなど、現代の価値観に近いストーリーを3世代同居の中で展開することで多くの共感を得られるアニメになるでしょう。

いずれにせよ、今後の作風はスポンサーによって大きく左右されるかもしれません。

今後のサザエさんの動向に注目したいところです。